2012/05/02

お客様のニーズ

我々はどなたにご飯を食べせていただいているのか。それはお客様からご飯を食べせていただいているのだ。今回はそんなことを書いてみたい。お客様から想定外のご指示をいただいたとき、翻訳者によっては、瞬間的に拒絶反応を示す場合がある。そんな時、下のようなたとえ話をして翻訳者に説明する。

元ホテルマンである私はケーキ屋さんやレストランを評価するとき、パティシエやシェフが化粧をしているかしてないかを見てその店を評価する。化粧は食材に匂いを付けるので味が変わる。化粧が食材に降りかかったら不衛生なので、ホテルのキッチンでは化粧は厳禁である(ファンデーションは絶対にダメ!)。同じ理由から香水もだめである。一流のシティーホテルのキッチン内での食材の管理はそれぐらい厳しい。ケーキ屋さんのアルバイトのパティシィエは化粧している。ひどいところではマニキュアまでしている!

僕はそういうところをねちねち見てその店を評価する。でも普通のお客様はそんなところを評価しない。ではどこを評価する?評価するのはおいしさである。その店の雰囲気かもしれない。お客様は化粧をしているかどうかなんて興味はない。

翻訳も同じことが言える。特許翻訳でいえば構成要素等の主要名詞の用語統一はもちろん重要である。ただし、大量の翻訳を必要とされ、また、管理の効率を重視するお客様は、少々英語として完成度が損なわれるかもしれないが、細部にわたる用語統一を重視される場合がある。そのようなお客様は細部にわたる用語統一がされていない訳文に対して低い評価をするかもしれない。しかし、用語統一を重視すれば、少々違和感のある部分も発生せざるを得ない(そのような場合、弊社はコメントを添付して代替案をご提案しています)。お客様の立場に立ってお客様のニーズに可能な限りお応えした上で、プロとしての我々の意見をご提案するのが我々の務めだと考えている。

村上春樹先生の翻訳を批判するお客様である読者が大勢いる。字幕翻訳の戸田奈津子先生の字幕にケチを付ける方々が大勢いる。「あの場面であの訳はないだろう」と言う。

お金を払うのはお客様。我々はお客様に食べせていただいているということを肝に命じ、自己満足的な訳文に終始することなく、お客様のニーズに対応した訳文をお届けし、さらなるご提案を行っていくことがお客様と我々のwin-winの関係を継続させる鍵だと考える。

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